(最終更新日:2025年11月14日)
このページでは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月を経過した後」であっても相続放棄が認められ得る、「特別な事情がある場合」について解説します。
松戸の高島司法書士事務所では、ご相談時に詳しい事情を伺ったうえで、これから相続放棄が可能かどうかを専門家として慎重に検討いたします。そのため、インターネットや書籍で自力で調べるよりも、まずはできるだけ早くご相談いただくことを強く推奨します。
それでも、事前にご自身で情報を整理、検討しておきたいという方には、このページの内容が参考になるはずです。あわせて、当事務所へのご相談をご検討の場合には、【相続開始から3ヶ月経過後の相続放棄】のページもご覧ください。
特別な事情がある場合の熟慮期間の始期について
家庭裁判所への相続放棄申述は「自己のために相続の開始があったことを知った時」である、相続開始の原因である事実、および自分が法律上の相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内にしなければなりません。
家庭裁判所への相続放棄申述は、原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時」ー すなわち、相続開始の事実と自分が法律上の相続人となった事実を認識した時から3ヶ月以内に行う必要があります。
この期間内に相続放棄(または限定承認)の手続きを行わなかった場合には、法律上、相続を単純承認したものとみなされます。単純承認とは、被相続人の遺産をプラスの財産もマイナスの財産(債務)も含めてすべて引き継ぐことを意味します。
しかし、例外として、特別な事情がある場合には、上記3ヶ月の熟慮期間が経過した後でも相続放棄の申述が可能となることがあります。
なお、このページの内容は、あくまで「特別な事情がある場合」の取り扱いに関するものです。相続放棄ができる期間の原則的な考え方については、【相続放棄が出来る期間(熟慮期間の始期)】をご参照ください。
特別な事情がある場合の熟慮期間の始期(目次)
1.3ヶ月の熟慮期間が後に繰り延べられる場合
2.相続財産の存在を一部でも知っていた場合
2-1.相続財産の存在を知っていても、相続放棄が認められた例
2-2.被相続人の財産を全く承継することがないと信じていた場合
2-3.不動産の存在を認識していたため、相続放棄が認められなかった例
3.3ヶ月経過後の相続放棄申述受理の申立について
4.相続開始の原因事実および自己が相続人となった事実を知らなかったとき
1.3ヶ月の熟慮期間が後に繰り延べられる場合
特別な事情がある場合の熟慮期間の起算点については、最高裁昭和59年4月27日判決が重要な判断を示しています。
相続人が、相続開始の原因たる事実、およびこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合であっても、上記各事実を知った時から3ヶ月以内に限定承認、または相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において上記のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和59年4月27日判決)。
上記の最高裁判例では、次の3点を満たす場合に、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時から熟慮期間が開始するとしています。つまり、このような特別な事情が存在する場合を除いては、相続財産を認識したかどうかには関係なく熟慮期間が開始することになります。
- 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていた。
- 被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情がある。
- 相続人において、相続財産が全くないと信じたことについて相当な理由がある。
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2.相続財産の存在を一部でも知っていたとき
前述の最高裁昭和59年判決の文言のみを形式的に解釈すると、熟慮期間の起算点が繰り延べられるのは、被相続人に相続財産が「全く」存在しないと信じていた場合に限られるということになります。
この「相続財産が全く存在しない」という文言をそのまま受け取れば、債務(借金)がないと思っていただけでなく、プラスの財産も一切存在しないと信じていたという場合に限って、熟慮期間の繰り延べが認められることになってしまいます。
それでは、次のようなケースはどう考えるべきでしょうか。
少額の預金などのプラス財産があることは知っていたが、債務があるとは全く思っていなかった。そのため相続放棄をしなかったところ、後になって多額の借金が発覚した。
このように、相続財産の一部(わずかな現金・預金など)の存在については認識していたが、主要な負債の存在については全く予見していなかったケースは、現実の相続では決して珍しくありません。
上記のような事情の場合、最高裁判例の形式的な文言に照らすと「財産の一部を認識している以上、熟慮期間の繰り延べは認められない」と読むことも可能です。しかし、実際の家庭裁判所の実務では必ずしもそのような厳格な運用はされていません。
2-1.相続財産の存在を知っていても、相続放棄が認められた例
相続財産の存在を前提として遺産分割協議を行ったものの、その後に多額の保証債務が判明した事案において、「遺産分割協議は要素の錯誤により無効となり得るため、法定単純承認の効果も発生しない可能性がある」として、相続放棄申述を却下した原審の判断を取り消し、さらに審理を尽くすべきものとして差し戻した裁判例があります。
相続人が相続債務の存在を認識しておれば、当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、相続放棄の手続を採らなかったのは、相続債務の不存在を誤信していたためであり、前記のとおり被相続人と相続人らの生活状況、他の共同相続人との協議内容によっては、本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある(大阪高等裁判所平成10年2月9日決定)。
遺産分割協議をするのは、相続の法定単純承認事由である「相続財産の処分」に当たります。この決定では「他の共同相続人との間で遺産分割協議をしており、右協議は、相続人らが相続財産につき相続分を有していることを認識し、これを前提に、相続財産に対して有する相続分を処分したもので、相続財産の処分行為と評価することができ、法定単純承認事由に該当するというべきである」としたうえで、上記の決定をしています。
しかし本件では、相続債務の不存在を誤信したことに相当な理由があるかどうかを重視し、誤信が合理的といえる特段の事情が認められる場合には、たとえ相続財産の一部を把握していたとしても、後から相続放棄が認められる可能性があると判断しています。これは、熟慮期間について次のような判断を示していることからも明らかだといえます。
民法915条1項所定の熟慮期間については、相続人が相続の開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上の相続人となった事実を知った場合であっても、3か月以内に相続放棄をしなかったことが、相続人において、相続債務が存在しないか、あるいは相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信したためであり、かつそのように信ずるにつき相当な理由があるときは、相続債務のほぼ全容を認識したとき、または通常これを認識しうべきときから起算するべきものと解するのが相当である。
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2-2.被相続人の財産を全く承継しないと信じていた場合
相続開始時に、多額の積極及び消極財産があることを認識していたが、「自らは被相続人の積極及び消極の財産を全く承継することがないと信じ、かつ、このように信じたことについては相当な理由あった」ことなどを理由に、「相続開始時において債務等の相続財産が存在することを知っていたとしても、相続開始後3ヶ月を経過しての相続放棄申述を、直ちに熟慮期間を経過した不適法なものとすることは相当でないといわざるを得ない」と判断した裁判例があります(東京高等裁判所平成12年12月7日決定)。
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2-3.不動産の存在を認識していたため、相続放棄が認められなかった例
相続人による「相続人が負債を含めた相続財産の全容を明確に認識できる状態になって初めて相続の開始を知ったといえる」との主張に対し、被相続人が所有していた不動産の存在を認識した上で他の相続人全員と協議した事実をもって、「被相続人に相続すべき遺産があることを具体的に認識していたものであり、抗告人らが被相続人に相続すべき財産がないと信じたと認められないことは明らかである」として、相続放棄申述の却下に対する即時抗告を棄却した裁判例があります(東京高等裁判所平成14年1月16日決定)。
本決定の立場によれば、「被相続人に相続すべき遺産があることを具体的に認識」した時点で、熟慮期間が開始することになりますから、相続債務の不存在を誤信していたなどの事情は全く関係ないことになります。上記と同じような事例にもかかわらず、全く反対の結論となっていますから注意が必要です。
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3.3ヶ月経過後の相続放棄申述受理の申立について
相続開始の原因となる事実、および自分が法律上の相続人となった事実を知った時から3ヶ月が経過した後に相続放棄の申述をする場合には、前述のとおり、「特別な事情」が存在することを具体的に示す必要があります。
そのため、当事務所では、通常の相続放棄申述の提出書類に加え、事情を詳細に記載した上申書や、特別な事情を裏付けるための資料を併せて提出し、家庭裁判所に対し適切かつ的確な説明ができるようにしています。
また、事実関係をどのように整理し、どのような法的主張を組み立てるかによって、相続放棄申述の成否が左右される可能性があります。このため、3ヶ月経過後の相続放棄については、専門的知識と豊富な実務経験を有する専門家に依頼することを強く推奨いたします。
高島司法書士事務所は、相続放棄申述の取扱件数が多く、蓄積された経験と実績に基づいて最適なサポートを提供しています。相続放棄でお困りの際には、ぜひ当事務所へご相談ください。
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4.相続開始の原因事実および自己が相続人となった事実を知らなかったとき
このページで解説している内容は、相続開始の原因たる事実およびこれにより自己が法律上の相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内に相続放棄をおこなわなかった場合に、3ヶ月経過後であっても相続放棄が認められるかどうかという点に関するものです。
原則として、これらの事実を知った時点から熟慮期間(3ヶ月)が進行しますので、その期間を経過してから相続放棄をするためには、前述のような「特別な事情」の存在が必要となります。
しかし、相続開始の原因事実(被相続人の死亡)および自己が相続人となった事実を知らなかった場合には、熟慮期間自体が開始しません。相続開始の原因事実とは「被相続人が死亡した事実」ですから、被相続人の死亡を認識していなかった場合には、その事実を知った時点から3ヶ月間が熟慮期間となります。
したがって、被相続人の死亡を知った時から3ヶ月以内に相続放棄の申述をするのであれば、特別な事情の有無は問題となりません。死亡の事実を知らなかったこと、そしてそれを知った時期について合理的な説明ができれば、相続放棄の申述は通常どおり受理されることになります。
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